2005/ Jun _ 17

希望という地平 23

四の五を言っていないで、とにかく一日でも早く注文靴をはじめたい。

つくる靴は、既製靴の規格に準じてつくるのでなく、ひとり一人の身体

にあわせ、とにかくフィッティングを重視する。

企画問屋の時代は木型があれば靴はつくれた。手づくり靴を始めるに

は、履く人の足がなければ、金輪際、靴はつくらない。

この20年つづけている。

それから値頃で、出来るだけ数をつくり、早く技術を身体で覚える。

「石の上にも3年」すべて自分の手でつくる目標を3年と定め、それまで

は型紙、製甲、加工底は外注の下職でやってもらい、フィッティングに

かかわる採寸、木型補正、裁断、ツリ込み、底づけと、自分で出来る作

業から始めた、注文靴家業も3年目で、3年前には出来なかった、型紙、

製甲、底加工を自勉で目標通りものにした。

この時、55歳になっていた。

さんざん、無謀だと言われたが、一人がいちばん強い、たりない資質を

人に頼らないで、時間をかけて、自分の資質に統合する。これが当たり

前として30歳からやってきた訳だから、自分でにとっては、いつものや

り方でやって来たに過ぎない。

まず靴がつくれなければ始まらない。

手を働かせながら、つくる手内で、手の意味、足の意味、靴の意味を問

い、人は何を求めているか、多くのことを学んだ。

「モノではなくコトガラ」この言葉から、言い尽くせぬ「力」をもらっ

た。手づくり靴を仕事にする仕組みは、この言葉で見つけ出したと言え

る。

「手は外なる脳」この言葉に勇気をもらった。

手が教えてくれる。この言葉を頼りに自勉で技法を手中にできた。

「自分でつくってみたい」と人が言ったとき、かって自分がそう思った

自分が目の前にいると思った。目の前が開けて来た。

集まってきた人に、どれくらい目の前を開かせられたか、それに沿って

此処まで来た。

手づくり靴は、旧く荒涼とした地平を脱出し、いまいちばん新しい希望

の地平となった。

ff20050617

羽根裏、腰裏(月型)、先芯(ソフト)の構造の3つハトメ。ソールは7ミリ

の返りのいいクレープ材。3年間2000足近くつくつた靴だ。

何でもないプレーンの靴だが、靴に初めて出会った、遠い昔の郷愁みた

いな・・・ものを、この靴に感じた。

穏やかだった昔の暮らしの質感が、くすぐったい。

多くの人たちも、この靴に何かの記憶をたどっているように見えた。

暮らしの用美は、別に気張ってつく必要はない。何かの記憶を呼び起こ

すアルバムのような靴があつてもいい。

この靴は、私にとっても、モゲワークショッブの原点であり、仕事の

基礎をつくってくれた、どんな靴にも代え難い宝なのだ。

つづく。

カテゴリー:日々考日 | Edit