2005/ Jun _ 13

希望という地平 19

よくTVで足と靴にかかわる番組で、注文靴を内容としたものを見ていると不満

に思うことがある。その不満は、いかに「履き手」というか「履き足」といって

いいかいつも迷うが、その注文する人の「履き足」を覚えるかが仕事だと思って

いる。そして履き手の足を、だれが責任をもって覚えるのかを問題にしなければ

ならない。

当然つくり始めからつくり終わるまで、つくり手が、その人の足を知りつくさな

ければならない。

それが注文靴なのだ。企画問屋で既製靴を仕事にしているころは、自分の手がけ

た(企画だけだが)靴は、製造現場も、履き手にわたるまでの距離が遠すぎる。

この距離を手の届く距離まで引き戻したいという気持ちが強くあった。

だから手づくり靴をつくる技法が欲しかった。

販売元に全ての責任があるのだが、距離が遠すぎると責任が取りようがない。

自分で納得して責任がとれる仕事がしたい。これも手づくり靴を求める原因にも

なつている。

一部上場の会社ならワーカーズを経て、自分の工房をもつた人に、手づくり靴の

技法を手につけて、なにがいちばん良かったと聞いたら「はい、責任のもてる喜

びを感じています」と答えが返ってきた。

「そうか、同じ思いで手づくり靴の世界に来ていたのか」と嬉しくなった。

さてその不満だが・・・

注文靴の多くは、旧態然とした仕組みでつくっていることだ。

つまり既製靴の仕組みをそのまま注文靴の仕組みにしている。

注文靴とは、つくり手が履き手を手の届く距離につめることという考えがない。

そして履き手の足を覚える人がいない。履き手の足はデータだけで管理される。

データ管理だけでグッドフィッテイグができるわけががない。手づくり靴のよさ

のひとつはデータでは計り知れない感覚を調整することができることである。

だから、つくり手が履き足を覚えるとはこのことを指すのである。

覚えるとは、距離をつめる、責任をもつ、ひとりでつくる。

既製靴の仕組みで注文靴をつくるとは、分業職手がかかわりあうことになる、誰

も履き足に思いをかける人はいない。ただ日常業務をこなしているに過ぎない。

この仕組みは、仕事を広げる利便性はある。注文は他店にとらせ、ということは

注文する人の足データは店側の人が計測する。つくる本人が計測するわけではな

い。手づくり靴がいちばん嫌うマニアルでことが始まる。

各店から集められたデータにもとずいて分業職手がつくるのである。

利便ではじまると、どこまでいつても利便性が優先する。

誰かさんのように「簡易ビスポーク」なんという恥ずかしい言葉も言えるように

なる。本格的に「ビスポーク」すると30万、40万かかるところを「ピスポーク」

の良さを取り入れて15万くらいでつくってあげます。

これって「ありがたく思わなくては、罰があたりますよ」とは言っていないが、

この「簡易」の言葉を透かしてみると、このように聞こえてくる。

これも仕事のひとつのカタチだから否定はしません。

わかりやすく言うと「イージーオーダー」であり「パターンメイド」を始めまし

たと言えいい。

この手の靴のラインは、つくり手の権威がクラスマーケットで知名、有名であれ

ば本人が手がけてつくる必要がなく、プロデュース、ディレクション、コラボなど

とブランドを祭り上げればなりたつ世界で、けして手づくり靴といえる代物ではな

いが、なにしろクラスというからには「権威」が何よりも優先する。「権威」をか

さにきるから「簡易ビスポーク」などと言えるのである。

手ずくり風既製靴、または手製靴とは、まさしくこの仕組みをさす。

距離をつめる努力が手づくり靴なのに、逆に既製靴と同じ距離にもどしながら、

なお「簡易ビスボーク」などと言い切る、この厚顔無恥はどこから来るのだろう。

考えてみるとクラスマーケットの特性は、この「厚顔無恥」の市場と言えなくない。

手づくり靴の整合性はどこへいってしまつたか。

手づくりの注文靴は・・・

分業でなく、つくり手が、歩行観察、足計測、臨床問答からはじめ、靴をつくりあ

げ、その靴の歩行経過を見定め、そらに補正修正を重ね、歩きをカタチにするのが

靴だと思い、履き手の足をとことん覚え込む、責任のとれる作業だと思ってつく

っている。

つくり手が手の届く距離までつめ、歩くことにかかわる責任をもつのが仕事で、

この論理から離れていく靴を手づくり靴といつてはいけない。

手づくり靴はモノではなく、歩くコトガラのエキスパートである。

たんに靴さえつくれればいいとする分野ではない。

今、靴をつくる技法を手につけている人は、既存の仕組みで仕事を考えている

ならそれでいいでしょうが、手づくり靴を仕事にしたいと思っている人は、こ

の踏み出しから方位を定めなければならない。

つづく。

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