2005/ Mar _ 24

必要な人が、必要なものだけを

2月の末に取材された掲載誌 「domingo」 v o i. 2 (季刊)が送られてきた。

050324_3

シリーズ特集・スローなニュースの「衣・食・住・学・心」の内「衣」でとりあげられている。

私のスローは、「自分の時間をとりもどし、自分が自分であるコト」を大事にするコトだと思ってる。

自分は自然の一部に在ると思うと、自然を傷めることはやめよう。

自分は自然という環境に在るから、環境を傷めるコトはやめよう。

問題を感じたら「・・・やめる」、この感性を失わないようにする。

傷めているのは、物をたくさんつくらなければ成り立たない仕組みなら、必要な分だけつくるだけで成

り立つ仕組みをつくればいい。

モノをつくる、いちばん小さな物差しは自分の「手」。

その手にみんなまかせればいい。

そして、手でモノをつくる「手の時間」を標準時にして、自分の暮らしをとりもどす。

スローは「手の時間」だとしている。

この取材は、その仕組みの道筋を丁寧になぞってくれた。

domingo_a domingo_b

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
文=吉田揚子写真=上松尚之文=笠原美律(ブックデザイン)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

表参道駅から徒歩約10分の場所に、靴の学校「モゲワークショップ」がある。

靴を手作りすることを楽しむための教室「ディヤーズ(=DIYersと書くDoItYourselfにersをつけて、

自分の履く靴を自分で作るという意味)」と、手作りの靴作りを仕事にした人のための専門コース

「ワーカーズ」を2本柱に成り立っている。

ワーカーズがスタートしてから約15年、多くの手作り靴職人たちがここから巣立っいった。

モゲワークショップは、手作り靴を作るための技法を伝授するだけでなく、その技術を用いて手作り靴

工房を持つための手ほどきまでするという、いままでにあまり類を見ない新しい学校(組織)だ。

30歳代には自分で広告制作会社を設立したりとさまざまな仕事をしながら、昭和の激動の時代を生きて

きた。

「自分ひとりででも生きていくことができる力を持たなければ!と多くの日本国民が思っていた時代。

安心などできない社会の中で、僕はひとりでできることをやってきました。

もともとチームプレーが苦手だということもありましたが」50歳になった頃、ある靴メーカーと仕事を

する機会があり、もともと靴が好きだったということもあって、実験マーケティングとしてmogeブラ

ンドの既製靴を販売することになった。

業界でいうところの企画問屋の走りである。販売用の靴ではあったが、デザインから発送まですべてを

自分ひとりで行い、それなりに思いのままの靴作りをしていたそうだ。

しかし、販売を目的とした既製靴なので、どうしても在庫をたくさん用意しなければならず、無駄が大

量に発生した。なぜこんなにたくさん作っておかなければやっていけないのか、どうしてこんな無駄な

ことをするのか。地域と人とのよい関係を考えたとき、

勝見さんの環境に対する問題意識がそれを許さないところまで追い込んでいった。

「このときから、必要な人が必要なものだけを作り、それが仕事として成立するしくみを作りたいと思

うようになりました」こう考えるようになったのは、勝見さんが生きてきた時代も影響しているよう

だ。

戦前は、土も水も空気も力があった。そこに生きる人々の生活は、物質的な貧しさはあったものの、心

にはゆとりがあって力強く生きていた。

一方、現代は自然が力を失い、そんな環境で生きる人間も用具も力がなくなってしまった。もっと力の

あるものを作りたい。作られたものに力を感じないのは、作り手と使い手の距離の喪失が原因なのでは

ないかと思うようになったそうだ。

「既製品を作っていると、使い手の顔も名前も人柄も見えてこない。僕はすてきな人たちとつながりな

がら楽しくモノ作りをしたいと思いました。そして、そうするためには手作りしかない、手で靴を作ろ

う。でも、売ることが前提の既製靴のようなモノ作りはしたくないと思うようになったんです」

自分なりの新しい仕組みを作ってみようと考え、すぐに行動に出た。

すでに55歳になっていた。いまさら靴作りを誰かに教えてもらう歳でもなく、見よう見まねで作り始め

たという。

バブルの1990年代は失われた時代と人々は言うが、勝見さんにとっては新たな意欲と充実した時代と

なった。

「このとき、僕は人生をリセットしたんです」。

頑固そうに見える勝見さんの顔が一瞬、少年のように微笑んだ。

ある日、手作り靴を注文に来た人が勝見さんの靴作りを目の当たりにして、自分も作ってみたい、と言

い出した。

じゃあ手ほどきするから作ってみますか、と始めたのがディヤーズなのだそうだ。

作ることの意義、自分の靴を作ることの大切さを手ほどきする場所が誕生した。

「技術を手渡すとき、同じ場所で同じ時間をともに過ごし、そのプロセスを共有してこそ本当の技術の

意味が生まれる。

だから人が集まる場を作ることが大切だと思ったんです」大げさな目標を掲げて目指してきたわけでは

ない。

自然と共感する人が集まってきたのだという。いまでは、約250人の人々が勝見さんのもとに集まり、

手作り靴の手ほどきを受けている。ディヤーズには仕事帰りに通ってくる人も多い。さぞや大変かと思

いきや、逆にここに来ることで疲れが取れるのだという。

一番自分らしくなれる場所。自分の手で自分の靴を作ることで、本当の自分が見えてくるのだろう。

ディヤーズで学ぶ生徒たちの中から、自分も勝見さんと同じように手作りの靴作りを仕事にしたいとい

う人が出てきたとき、専門コースである「ワーカーズ」が誕生した。

いまから15年ほど前のことだ。そしてその後、何人ものワーカーズ卒業生たちが、自らの工房を立ち上

げて勝見さんと同じ道を歩き始めている。

「一番大切なことは、いつまでも作る楽しさを忘れないために、自分の靴を作ること。

次に、自分が履く靴を作りたいという人に手ほどきをすること。

3番目は、足になんらかの問題を抱えて困っている人の問題を解消して、できるだけ歩きやすい靴を作

ることなんだよ」。

勝見さんの信念を垣間見ることができる言葉だ。

「靴さえ作ることができれば、いきなり仕事になると思いこんでいる人がたくさんいるけれど、それは

間違い。靴市場は、あくまでも商品として靴を売る、既製靴のためのものであって、手作り靴が仕事に

なるような場ではないのが現実だからね」。

既製靴と手作り靴の違いは何か?

この二つは似て非なるものと認識するところから始める必要があるようだ。勝見さんいわく、既製靴に

携わる人々は、靴を作品=商品とみなしがち。

靴を履く人、1人ひとりのことを考えるわけではなく、人の身体差を規定に沿って固定し、市場の要請

(モードやトレンド)を最優先、売り急ぐことを前提にしているのだとう。

つまり、靴の履き手の方ががんばって靴に自分の足を合わせていかなければいけないということだ。人

の足はすべて規格内に納まるはずはないのに......。

これに対して手作り靴は、

履く人のからだの動きに合わせて「足」とともに歩く。すなわち「歩くこと」を形にしたものが「靴」

であるという考え方だ。

手作り靴は、グッドフィッティング(足にぴったり合うこと)とグッドウォーキング(足で快適に歩くこ

と)をいかに靴の形にするかの技法を追求する。

靴はモノではなく、コトなのだ。

だから、手作り靴を仕事にするためには「モノを売るのではなく、コトを売れ」ということがキーワー

ドになってくる。

「靴を作ること自体は決して特別なことではありません。おにぎりを握れる人なら誰でも靴を作ること

ができると僕は思います。難しいのは、それを仕事にして人々とかかわりをもっていくこと」だと勝見

さんは言う。

モゲワークショップは「靴を作る技法」と「歩きをカタチにする技法」の融合技法を手ほどきする日本

でただひとつの養成機関だと、勝見さんは話す。

僕にとってのスローライフとは

「僕が子どもだった頃(昭和初期)は、町内に手仕事を生業にして生活している人がたくさんいました。

豆腐屋さんの、1日の仕事始めの音で朝がスタートし、夕方のラッパの音が帰宅の合図。町の音そのも

のや手でモノを作るその時の流れが、とても心地よかった。

ジャパニーズライフこそスローライフだと思う」。

勝見さんの考えるスローライフの原点は、こういった幼少時代の風景の中にあるようだ。

現代の我々の暮らしを取り巻く用具類は、便利で快適、早い、簡単、などを良しとして、いかに人間の

手を働かせないようにするか、いかに歩かせないようにするかがマーチャンダイジングの基本になって

いる。

人が人たるゆえんは手を使うこと、立って歩くことなのではなかったのだろうか ?

現代の暮らしの中では、手を使うとかよく歩くなどといったことがおろそかになり、身体能力の衰弱は

目を覆うばかりだと勝見さんは嘆く。

「例えば、早朝のウォーキング。歩くことさえも目的にしないとできないのか、と少し奇妙に思えるこ

とがあります。人間は本能的に自分の身体能力に対する危惧を持っているのかもしれないね。

僕たちの体そのものや暮らしについて、真っ向から向き合って考え直す必要があると思います」

いま、なぜ手作りなのか。

「手間をかけ、時間をかけてこそ、自分の時間を取り戻すことができる。暮らしをいかに自然の摂理に

近付けるかが、スローライフの基本」と勝見さんは語る。

とにかく自分の手を働かせば、自分にとっていま何が必要なのかを、その手が教えてくれるという。無

心になって手を動かせば、本当の自分が見えてくる。

キーワードは「手」。

仕事をしていて頭が痛くなるのは、世の中に必要のないものを無理やり生み出そうとするから。手を動

かせば、頭ばかりを使っていたときには気付かなかったことに気付くはずなのだと。

「僕はかつて、手詰まり(閉塞感)を感じて、手探りで手作りに行き着いた。そしていま、とても手ごた

えのある暮らしをしているんだ」と勝見さんは静かに笑った。

手前にある自転車は、勝見さん愛用のモールトン社製で、自転車好きには垂涎のモデル。

「これはアレックス・モールトン博士が売ることを前提としてではなく、自分にとって自

転車はこうあるべき、と思って作った自転車。そこがいい」。

力のあるモノに出会う機会が少なくなったいま、出会ったときは迷わず手に入れるのだとか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は車の免許なない。自転車でいける範囲が今の生活圏になる。旅行は、いつも自転車を担いでいっ

た。海外でも自転車を担いでいく。

自転車の乗れないトコロは私が担ぎ、乗れるトコロは自転車に乗せてもらう。モノと人の、この相互扶

助関係がとても気に入っている。

世の中の人工物で美しいと思う風景は、ゼロ・エネルギーか低エネルギーのもの、

自転車。

飛行船。

風力発電。

の3 つである。

カテゴリー:日々考日 | Edit